郡山医療生活協同組合 桑野協立病院

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投球動作と肩・肘障害

肩・肘を壊すスポーツといえばまず野球です。

では野球に肩・肘障害の多い理由はなぜでしょう。投球にあることは間違いありません。肩・肘障害の選手を診察して思うのは、選手が投球動作をわかっていないことです。本や雑誌には投球の話はたくさん掲載されています。しかし、読んだからといって自分の投球動作を良くすることには繋がりません。ですから、外来では選手の投球動作を観察し、投球動作の問題点と障害の関係を説明し治療を始めなくてはなりません。もちろん投球動作には身体、技術、考え方等も表現されます。では投球動作とは?

投球は並進運動、上体の回転運動、
それに伴う腕の振りの3種類の動作から構成されます。

投球動作

投球動作

肩・肘障害の原因となる投球動作の問題はほぼ6点に集約できますが、今回は主要な3点について説明しましょう。
(1) 重心コントロール不良、(2) 骨盤・肩甲骨を使った体の開かない並進運動をできないこと、(3) 右投げの場合、左上体のリードで右腕を振るのではなく、右腕自体を振ってしまうことの3点です。(1)と(2)は並進運動、(3)は上体の回転および腕の振りと関連します。

1)重心コントロール不良

重心コントロールの不良とは、簡単に言うときちんと立てない、移動できないことです。
身体的問題に由来することが多く、多くの選手は撮影したビデオで指摘され初めて気づきます。この問題を抱える選手の場合、ボールを目的の方向に投げるため、ボールリリースでさまざまな調整をしなくてはなりません。例えば、手首を小指側に折ることでボールの飛ぶ方向を右に調整しますが、その結果右肘内側を痛めます。

手首の使い方
2)骨盤・肩甲骨を使った体の開かない並進運動をできないとは

体を閉じるにはどうすれば良いか知らないことを意味します。そのためには骨盤・肩甲骨を使う必要があります。
踏み込み脚の着地まで体を開かないようにすれば、上体の回転運動、それに伴う腕の振りにつなげられます。しかし、骨盤・肩甲骨の使い方を知らない選手は、腕を振ってなげる以外にありません。この場合、肩・肘障害いずれも起こし得ます。

投球フォーム
3)右投げの場合、左上体のリードで右腕を振るのではなく、右腕自体を振ってしまうこと

右腕を振ることは一見(2) と同じようですが、身体的問題ではなく投球の考え方に問題があります。このような問題を抱える選手は意識的に腕を振り、ボールのスピードを上げようとします。
したがって、「意識して腕を振るのか」を質問すれば、(2)と(3)を区別できるでしょう。もちろん、中には(2)と(3)の問題を同時に抱える選手もいます。これらの選手は肘の三頭筋付着部の痛みを訴えます。

このように、野球の肩・肘障害の選手を診察するうえで、
投球動作を観察できるか、理論的に投球動作についてアドバイスできるかが重要なポイントです。

また投球障害の97%は手術せずに治療できること、
手術した場合復帰まで1年かかることもわかっています。

[文 献]
1. 前田健. ピッチングメカニズムブック. ベースボールマガジン社, 2010.
2. 浜田純一郎, 山口光國, 筒井廣明, 前田健, 近良明. 上肢と肩甲骨運動からみた投球動作の仕組み-トップからリリースまで肩甲上腕関節は動かない-. 肩関節36: 725-729,2012.
3. 岩堀裕介. 成長期の投球障害への対応とアプローチ. 臨床スポーツ29: 67-75